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『1984』第二部 第4章「聖域」の沈黙とインナー・パーティーからの略奪品

※当コンテンツは、AIを活用して作成しています。

ウィンストンは、チャリントン氏の店の二階にある、見窄らしく小さな部屋を見渡した。窓辺には、擦り切れた毛布とカバーのない枕が乗った巨大なベッド。マントルピースの上では、アナログな12時間計が時を刻んでいる。部屋の隅のテーブルでは、先日買ったガラスのペーパーウェイトが、薄暗がりの中で静かに光を放っていた。

 

ブリキの石油コンロに火をつけ、ウィンストンは鍋の水を沸かした。持参したのは「勝利のコーヒー」とサッカリン。だが、心臓は「狂気の沙汰だ」と告げ続けていた。党員が犯しうる罪の中で、これほど隠蔽不可能なものはない。

この部屋を借りる際、チャリントン氏は驚くほど無関心を装った。「プライバシーは貴重なものです。一人になれる場所は誰にでも必要だ」と彼は言い、自ら背景に溶け込んで消えるような仕草で、裏口の存在を教えた。

 

窓の下では、逞しい赤腕のプロレの女が、洗濯物を干しながら流行歌を歌っている。「それは叶わぬ空想。四月の日のように過ぎ去った……」。執筆機(ヴァーシフィケーター)で作られた安っぽいゴミのような歌も、彼女の力強い歌声にかかれば、不思議と心地よい響きに変わる。テレ画面(テレスクリーン)のないこの部屋には、奇妙な静寂が満ちていた。

 

やがて、階段を駆け上がる急ぎ足の音がして、ジュリアが部屋に飛び込んできた。彼女は茶色の工具鞄を放り出すと、膝をついて中身をぶちまけた。スパナやドライバーの下から現れたのは、丁寧な紙包みの数々。

 

「本物の砂糖よ。サッカリンじゃないわ。それからパン―あの忌々しい代物じゃない、まともな白パン。それからジャムにミルク。でも、これを見て。私の一番の自慢よ」

彼女が包みを解く前から、その香りは部屋を満たしていた。遠い子供時代の記憶から立ち上るような、あるいは閉まりかけたドアの隙間から時折漂ってくる、あの芳醇で熱い香り。

 

「コーヒーだ」彼は呟いた。「本物の、コーヒーだ」

「インナー・パーティー(中枢)のコーヒーよ。1キロもあるわ」

「どうやってこんなものを……?」

「あいつら豚どもが持っていないものなんて何一つないわ。でも使用人たちがくすねるのよ。見て、お茶もあるわ」

ウィンストンは彼女の横にしゃがみ込み、包みの端を引き裂いた。

「本物の紅茶だ。ブラックベリーの葉なんかじゃない」

「最近は紅茶がよく出回ってるわ。インドを占領したか何かでしょうね」ジュリアは投げやりに言った。「でも、ねえ。3分間だけ向こうを向いていて。ベッドの反対側に座って、窓には近づかないでね。私がいいって言うまで振り向いちゃダメよ」

ウィンストンはモスリンのカーテン越しに中庭を眺めた。あの逞しい女が、まだ洗濯物を干しながら歌っている。 「時間はすべてを癒すと人は言う。忘れられると人は言う。けれど年月を越えて蘇る笑顔と涙が、今も私の心を締め付ける……」 彼女は下らない流行歌をすべて暗記しているようだった。党員が独りで、自発的に歌うことなどあり得ない。それは危険な「偏屈」であり、独り言と同じ不穏な行為だ。歌うべき何かを持っているのは、飢餓線上にいる人間だけなのかもしれなかった。

「もう向いてもいいわよ」

振り返ったウィンストンは、一瞬彼女だと気づかなかった。裸でいるのを想像していたが、現実はもっと衝撃的だった。彼女は「化粧」をしていたのだ。 プロレの街の店で買い込んだのだろう。唇は赤く、頬には紅が差し、鼻先には白粉。不器用な仕上がりだったが、ウィンストンの基準では十分だった。党の女性が化粧をしている姿など、想像したこともなかった。彼女はただ美しくなっただけでなく、圧倒的に「女」になっていた。 抱きしめると、人工的な菫の香りが鼻腔を突いた。かつて地下のキッチンで出会った、あの老婆と同じ香り。だが、今はそんなことはどうでもよかった。

「香水まで!」 「ええ、そうよ。次は何をするか知ってる? どこかで本物のドレスを手に入れて、この忌々しいズボンの代わりに穿くの。シルクのストッキングにハイヒール。この部屋では、私は党の同志じゃない。一人の女になるのよ」

二人は服を脱ぎ捨て、巨大なマホガニーのベッドに潜り込んだ。ウィンストンが彼女の前で全裸になったのは初めてだった。青白く痩せこけ、静脈瘤が浮き出た自分の体に、彼は引け目を感じていた。二人はそのまま、短い眠りに落ちた。 目が覚めると、時計は9時近くを指していた。沈みゆく夕日の黄色い光が、激しく沸騰する鍋を照らしている。

その時、ジュリアが突然ベッドの中で跳ね起きた。床の靴を掴み、少年のような見事なスイングで部屋の隅へ投げつけた。 「何だったんだ?」 「ネズミよ。壁の隙間から汚い鼻を突き出していたわ。驚かせてやったわ」 「ネズミだと!」ウィンストンは呻いた。「この部屋にか!」 「どこにだっているわ。女子寮のキッチンにもね。ロンドンのある場所じゃ、赤ん坊が襲われることもあるのよ。茶色の巨大な奴がね、あいつらはいつも―」

「頼む、それ以上言わないでくれ!」ウィンストンは目をきつく閉じて叫んだ。 顔面蒼白になった彼を、ジュリアは不思議そうに抱きしめた。ウィンストンには、幼い頃から繰り返される悪夢があった。暗闇の壁の向こうに、直視できないほど恐ろしい「何か」がいる夢。彼は、それが何であるかを本能的に知っていたが、脳の一部をもぎ取るような努力をしなければ、それを引きずり出すことはできなかった。

「すまない、何でもないんだ。ただ、ネズミが嫌いなだけなんだ」

パニックの黒い一瞬は、すでに半分忘れ去られていた。

ウィンストンは少し恥ずかしさを感じながら、ベッドの背もたれに体を預けた。ジュリアはベッドを出て、作業着を羽織り、コーヒーを淹れた。鍋から立ち上る香りはあまりに強烈で刺激的だったため、外の誰かに気づかれぬよう二人は窓を閉めた。コーヒーの味もさることながら、砂糖がもたらす絹のような滑らかな舌触りは、サッカリンに慣らされたウィンストンにとって、ほとんど忘れかけていた至福だった。

 

ジュリアはパンとジャムを片手に部屋を歩き回り、本棚を眺め、テーブルの修理法を考え、古い12時間計を面白そうに眺めた。彼女はガラスのペーパーウェイトを光の当たるところへ持ち出してきた。ウィンストンはそれを手にとり、雨水のように柔らかなガラスの質感に見惚れた。

 

「これは何なの?」

「何でもないんだ。何かの役に立つために作られたわけじゃない。だから好きなんだ。これは彼らが修正し忘れた、歴史の小さな塊なんだよ。読み方さえ分かれば、100年前からのメッセージなんだ」

 

二人は壁の版画―セント・クレメント・デーンズ教会を見ながら、チャリントン氏に教わった古い数え歌を口ずさむ。「オレンジにレモン、セント・クレメントの鐘が鳴る」

驚いたことに、ジュリアがその続きを繋げた。

「三ファージング貸しだよ、セント・マーチンの鐘。いつ返してくれる、オールド・ベイリーの鐘……」

「最後はこう終わるの。『お休み前の灯火だよ、お前の首をはねる斧だよ!』ってね」

 

それはまるで、二つの合言葉が合致したかのようだった。

 

部屋が暗くなり始めた。ウィンストンは光の方へ向き直り、ガラスのペーパーウェイトを覗き込んだ。

興味が尽きないのは、中の珊瑚ではなく、ガラスそのものの内部だった。空気のように透明でありながら、そこには計り知れない奥行きがあった。ガラスの表面は空の天蓋であり、その中に小さな世界が、独自の空気と共に封じ込められているようだった。

彼は、自分があのベッドやテーブル、そしてジュリアと共に、その中に入り込んでいるような感覚に陥った。

ペーパーウェイトはこの部屋そのものであり、珊瑚は、クリスタルの中心で永遠に固定された、ジュリアと彼の人生そのものだった。

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